柚子を食せば。
2025.11.6記憶を甦らせるきっかけはいろいろある。その強弱は人それぞれかもしれないが、味や香りは平均して強いトリガーなのではあるまいか。僕は、味覚も凡庸だし、臭覚に至っては鈍感のそしりを免れない。それでも、刻まれた味と香りがある。それは他ならぬ柚子である。
44歳から56歳までの12年を暮らした福岡県東峰村(旧宝珠山村)。縁の巡り合わせでの移住だったが、その村は柚子の村だった。到る処に柚子の木があり、そのほとんどが管理者不在の野生の柚子。わが家の裏にもほったらかしの林があり、冬になると採集して、皮にチョコを掛けて柚子チョコを作ったり、浴槽にたくさん浮かべて柚子風呂を楽しんだりした。
柚子の実に刃を入れたり、お風呂に浮かべたときのあの馥郁たる香りは、新鮮で強烈だった。いまも、柚子の香りを嗅ぐと、反射的にあの頃の暮らしを思い出す。リノベーションしていい味を出した古い農家。自然に抱かれて育った幼い息子たち。親切な隣人たち。そして、美しい四季折々の山間の風景など、忘れがたい素晴らしい想い出でいっぱいになる。
by 江副 直樹 2025-11-6 17:05




