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毎朝、境内へ通じる百段階段を上がる。そこは両側に大木が生い繁っていて、春夏秋冬さまざまな表情を見せる。春は若葉が萌え出し、夏は鬱蒼とした緑陰が涼を生み、秋は紅葉と落葉がはかなげで、冬は木々が葉を落とし切り、日射しが広がり意外にも明るくなる。

季節は夏の終わり。あるいは秋の始まり。日課の朝の散歩で階段を上がる。ある日、時を経た切石の上にドングリが落ちてくる。それは日に日に増えて、形状もさまざまな数種類のドングリが足下に転がっている。適当なひとつを摘まみ上げたり、掌にたくさん積み上げてみたり、写真を撮るために立ち止まると、初めてドングリの落ちる音に気づかされる。
改めて耳を澄ませば、ポトリポトリと頭上から落ちてくる。階段に跳ねる音、腐葉土が受け止める音。周囲に他人はおらず、僕はしばし長い階段に佇んで、静寂の中に微音を探している。それまで、落下音を掻き消していたのは、他ならぬわが足音と呼吸音なのだった。立ち止まれば見えてくる、聞こえてくるものがある。脇目もふらず、急ぐばかりが能じゃない。

最も一般的なドングリ。樹種はわからない。

by 江副 直樹 2023-10-7 10:10 
EZOE naoki

田舎を拠点のプロデュース稼業。その日々仕事雑感、問わず語り。

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