霧に惹かれて。
2018.1.11霧が好きだ。朝目覚めて、外が濃霧だとわかったとき、胸の奥からワクワクが湧いてくる。雪のそれとも違う、霧には霧の高鳴りがある。日田は霧が多く、冬から春にかけて、外気温と川の水温の差で生まれる霧を、特に底霧と言う。これが盆地全体を覆うのだ。
霧は濃ければ濃いほどいい。これまでの人生で最上の濃霧は、40年程前に味わった大分県九重、飯田高原の霧だった。ドライブ先の現地で数メートル先も見えない、文字通りの濃霧を経験した。幻想的とはまさにあのことで、いつも嘆息を漏らしていた絶景もまるで見えないし、霧の中に閉じ込められたような気分になったものだ。写真を何枚も撮ったっけ。
時が経ち、僕はその土地の比較的そばに暮らすことになった。東峰村も、時折住まいから見下ろす眼下の谷に霧が溜まったが、日田の底霧はさらに格別で、すべての存在を隠すように充ち満ちる。いまは、時間が進めばその後快晴になることも知った。だからこそ、愛おしい朝の一刻。某夜、雨も雪も降らない朝を控えて、僕の胸は小さな期待を宿すことになる。
by 江副 直樹 2018-1-11 22:10