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錦絵を踏む。

2021.12.13

秋が終わった。残暑の熱が冷めて、風は吹くたびに温度を下げ、鮎釣りの炎熱が遠い幻のように思えてくる頃。木々の葉は、日毎にその色を変えていく。ハゼが筆頭で、次いでモミジか。イチョウが黄色味を強めると秋はすっかり深くなっている。遂には、落葉の始まり。

桜の落花と並んで、迫ってくる寂寥感は毎年必ず胸を締め付けるが、美しさの盛りが過ぎた訳ではなくて、どの状態も新たな美を秘めていて、それに気づくことでまた季節を噛みしめることになる。見上げていた視線は、いつしか足下に奪われる。赤いモミジが、黄色いイチョウが、茶色のケヤキやクヌギが、競うように次々と、途切れることなく葉を散らす。
出張と悪天候を除けば、毎朝散歩をする。眼前の大階段を上がり、境内を抜け、大原山の尾根道周辺を歩くと、そこここに溜息が出そうな落ち葉の絨毯が広がる。その美しさに陶然とする理由は桜花と同じで、明日にはもう色褪せていく予感が殊更そうさせる。微かにヒリヒリとする焦燥。人知れず開帳される豪勢な錦絵を、僕は日々踏む得難い栄誉に浴している。

ある日の大階段。天候によって図柄が変わる。

by 江副 直樹 2021-12-13 10:10 
EZOE naoki

田舎を拠点のプロデュース稼業。その日々仕事雑感、問わず語り。

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