胡麻を潰す。
2023.5.25人生は些事に有りと喝破したのは、敬愛するコラムニストの山本夏彦。老人の域に達したいま、改めて我が身を振り返ってみても、幸福感を決めるのは結局「解釈」次第だという確信は強まるばかり。同じ出来事が、見方、受け取り方によって、不幸にも幸福にもなる。
例えば、口中に残る胡麻粒。僕は胡麻が好きなので、さまざまな料理にやたら煎り胡麻を振り掛ける。すると、美味しく食事をいただいた後、寛いでいるときに舌に触るものがある。必ず数粒、歯茎の周辺にとどまっているのだ。爪楊枝などを使って解き放ったら、捕り逃がさないように舌を使い、周到に前歯まで運んで来ると、おもむろに潰しにかかる。プチ。
なんとも小市民的な小さな愉しみかも知れないが、これが意外なほどの快楽なのだ。些事の重要性に僕らはもっと気づいた方がいい。地域プロデュースをしていて、再三痛感するのも日常のデザイン。派手なイベントの前後こそが鍵を握る。あまりに卑近すぎる引用だが、豊かさとはそういうものだと思っている。近ごろ、胡麻にジュンベリーの種が仲間入りした。
by 江副 直樹 2023-5-25 10:10