百日紅の夏。
2023.7.25夏が盛りを迎えると、あちこちに白や紅、ピンクの花弁を房のように咲かせる百日紅。その名の通り、開花後もすぐに散り切ることもなく、長い期間咲き続ける。色の乏しい季節に、ホッとするような花木。日田のわが家にもシンボルツリーとして玄関脇に植えている。
村に暮らして何年目だったろうか。それは黄泉の国への入り口のような光景だった。山村の8月、ある日の午後。緑は濃さを増し、眼下の棚田には無数の赤とんぼが飛んでいた。蝉も大音量で啼いていたはずだが、不思議と音の記憶はない。背負うようにそびえる裏の五太(ごんた)山に、もうすぐ太陽が隠れる頃。白い百日紅の花がゆっくり風に揺れていた。
幼少時、間借りしていた寺の庭に百日紅があって、樹皮が剥がれて本当にツルツルだった。特別な花ではなかったが、村での経験から徐々に印象が変わり、いまでは好きな花樹の上位に入っている。新居に植えたピンクのわが家の百日紅は、カミキリ虫にやられ一度瀕死をさまよい、後に奇跡の復活。お盆を挟み、夏の間咲き続ける百日紅はどこか命を想わせる。
by 江副 直樹 2023-7-25 14:02