
災禍の振る舞い。
2018.1.5昨夏、僕らが12年暮らした福岡県朝倉郡東峰村とその周辺は、未曾有の水害に見舞われた。僕らがいたエリアも何カ所も崖が崩れ、道路が寸断され、水道が止まり、電気が消えた。地区によっては家や店が流れ、痛ましい犠牲者も出た。僕はなにもできず、ただ悶々とした。
年始の挨拶という名目でようやく訪れた故郷。家族4人の本籍を定めた集落は、爪痕を残しつつも穏やかな時間を刻んでいた。人々は気丈で頼もしかった。村を抜けて杷木町松末地区へ山越え。我が目を疑った。一度だけ見た東北の津波禍のようだった。山が削られ、谷が埋まり、家々が消えていた。馴染みだったギャラリーを併設した酒屋「こめや」へ立ち寄る。
九死に一生を得たご主人と女将に再会。道側の店舗は、裏山からの土石流でほぼ壊滅。難を逃れた母屋で聞いた、ニュースでは伝わらない生々しい話の数々。親しい大人たちは命懸けでたくさんの人を助けていた。そして、土砂に埋まった酒を掘り出し、酒盛りをした愉快なタフネスも健在。僕らがこの人たちを好きな理由がわかった。品性は災禍でこそ試される。
by 江副 直樹 2018-1-5 6:06