桜花幽玄。
2019.4.8桜は、なにかフェロモンのような物質を出しているに違いない。でなければ、たかが花ごときに、あんなにソワソワ、ドキドキするはずがない。花咲か爺さんよろしく、枯れ木のような枝々から、薄桃色の花びらが湧き出してくる。唐突に出現する春模様が胸に迫る。
咲き始めると次々に花を増やし、一本の木が花だけで染められる。樹種にもよるが、葉が出る前に花だけがこれほど豪華に全体を覆うのは、桜が突出しているのではないか。梅も木蓮もあるが、桜は満開のボリューム感が特別だ。しかも、その花はたちまち散り始める。潔さや死の美学に引用されがちな所以だが、一時たりとも安住しない風情を醸し出すのである。
好きな言い回しに、花は桜木、人は武士。というものがある。安定の中に惰眠を貪るその対極。開花の端から落花が始まるその切なさ。井伏鱒二による「勧酒」の妙訳、コノサカヅキヲウケテクレ ドウゾナミナミツガセテオクレ ハナニアラシノタトエモアル ゾ サヨナラダケガジンセイダ。危うく落涙。そんな気分を酒と共に味わう花見という文化の艶っぽさよ。
by 江副 直樹 2019-4-8 6:06