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野狐が来る。

2018.8.22

それは、94歳で大往生した母方の祖母の口癖だった。小学校へもまだ行かない頃、夕方まで遊び呆けていると、必ずこの言葉を投げられた。「遅うなっぎ野狐のくっぞ(帰りが遅くなったらやこが来るぞ)」。早い帰宅を促す日々のこの佐賀弁がずっと耳に残っている。

夕方の薄暮の時間帯を、俗に逢魔が時(おうまがどき)と言う。黄昏時のことで、妖怪や幽霊が出そうなどこか怪しく不吉な時間を指す。野狐の意味を知ったのは、ずっと後のことだ。ヤコ?ひたすら幼い自分をさらっていくような、不気味な何かが現れるんだと思っていた。闇は太古の昔から人間に危険をもたらした。そこへの入り口で聞いた戒めの言葉。
時代が進み、闇が減り、便利さに慣れ、僕らは徐々に鈍感になっているのかも知れない。直観の衰退によって、いつか僕らの営みは根底からひっくり返されるような危機に陥るのではないか。美しい夕焼けを見ると、祖母に背負われて見た佐賀平野の夕焼けと遠くに流れていた「夕焼け小焼け」のメロディを思い出しながら、文明の隙間について考えることがある。

我が家そば。中学校グラウンドからの見事な夕焼け。カメラを持って。

日田は、夕焼けに恵まれている。西が開けている土地はみなそうだ。

ある日の夕刻。気温も下がり始める時間。涼風を受けながらの撮影。

雲ひとつない夕焼け。それぞれに味があり、得も言われぬ風情がある。

by 江副 直樹 2018-8-22 14:02 
EZOE naoki

田舎を拠点のプロデュース稼業。その日々仕事雑感、問わず語り。

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