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10代の終わり、詩人になりたいと思っていた。詩を紡いで生きていけたら、どんなに素晴らしいだろう。しかし、食べて行くのが容易ではないことは少年にもわかる。芸術家とは職業ではない。それは生き方の形容だ。ほどなくそう気づいた。僕はどう詩と向き合うのか。

気持ちの折り合いが付かず大学を中退し、家業を手伝い、釣りに没頭した。それで人生が開けるはずもなく、紆余曲折の挙げ句、コピーライターになったが、売文家業は詩人とは似て非なる。ずっと続いていたのは、魚釣り。世間的には、趣味と一蹴されそうな道楽だが、実はこれこそが詩情に最も近かった。それは紛れもなく花鳥風月の中にあったから。
生産性のない暇潰し。ある物差しからすれば、その通り。しかし、そこには夥しい詩が溢れていた。以前連載したエッセイに、「川に流れているのは水だけではない」と書いたことがある。日々の些末なそれとは異なる、悠久の情報群。僕はそこにこそ身を置いていたい。そしてそれを言葉に換えること。僕は66歳になったいまも、詩人でいたいと思っている。

仙人にはなれない。超俗と世俗を行ったり来たり。

by 江副 直樹 2022-6-13 10:10 
EZOE naoki

田舎を拠点のプロデュース稼業。その日々仕事雑感、問わず語り。

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