白色光。
2023.5.19リビングの間接照明が切れて、取り敢えずストックがあったLEDに換えた。蛍光色だったので、光が当たる漆喰壁は白けて見えた。明日にでも電球色の球を買いに行こう。そう思わせる嫌悪感がこころに滲む。突然、僕はかつてこんな気分を友に伝えたことを思い出した。
1975年、西暦で言うならそういうことになる。僕は受験勉強も大してせず、要領良く現役で大学に入った。しかし、失恋や急激な環境の変化が災いしたのか、経験のない精神の乱れに苛まれた。そんな中できた数少ない友人のNは小説家志望で、同様の想いのあった僕と良く話し込んだ。暗い下宿の白々しい蛍光灯の下、その夜も夜更けまで会話を交わしていた。
当時Nが書こうとしていた小説のタイトルの話になった。なかなか決まらないんだと言うNの言葉を受け、僕は唐突に返した。「そんなんじゃなくてさ、もっと抽象的な、例えば」と続け、天井で光っていた蛍光灯を見ながら「例えば、白色光とか」と言った。するとNは、「いいね、それ」と思わぬ反応をした。その一瞬をいまも時々思い出す。あの言の葉の刻。
by 江副 直樹 2023-5-19 10:10