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昨夏、僕らが12年暮らした福岡県朝倉郡東峰村とその周辺は、未曾有の水害に見舞われた。僕らがいたエリアも何カ所も崖が崩れ、道路が寸断され、水道が止まり、電気が消えた。地区によっては家や店が流れ、痛ましい犠牲者も出た。僕はなにもできず、ただ悶々とした。

年始の挨拶という名目でようやく訪れた故郷。家族4人の本籍を定めた集落は、爪痕を残しつつも穏やかな時間を刻んでいた。人々は気丈で頼もしかった。村を抜けて杷木町松末地区へ山越え。我が目を疑った。一度だけ見た東北の津波禍のようだった。山が削られ、谷が埋まり、家々が消えていた。馴染みだったギャラリーを併設した酒屋「こめや」へ立ち寄る。
九死に一生を得たご主人と女将に再会。道側の店舗は、裏山からの土石流でほぼ壊滅。難を逃れた母屋で聞いた、ニュースでは伝わらない生々しい話の数々。親しい大人たちは命懸けでたくさんの人を助けていた。そして、土砂に埋まった酒を掘り出し、酒盛りをした愉快なタフネスも健在。僕らがこの人たちを好きな理由がわかった。品性は災禍でこそ試される。

いまや壁や柱を残すのみ。解体を余儀なくされるとか。再開を望む声は多い。

これからなにか手伝えるかも知れないと思った。僕の中の小さな希望だ。

かつての定点撮影ポイント。ここはまだしも、他地区では被害甚大な東峰村。

いまは跡形もなくなったカフェ「匙加減」。子供たちの想い出はどこへ?

by 江副 直樹 2018-1-5 6:06 
EZOE naoki

田舎を拠点のプロデュース稼業。その日々仕事雑感、問わず語り。

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