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弓を引く人。

2017.2.23

わが家のすぐそばに、日田市営の立派な弓道場がある。広い駐車場や射場のあちこちに桜の老木が並び、歴史の蓄積を感じさせる場所。引っ越しを決める際、決断を後押ししてくれた雅な雰囲気を保つ一角。表通りから入ると、左に荘厳な神社、右に弓道場が控えるのだ。

日田やその周辺には、弓道が日常に浸透していることを知った。隣村にいた頃、ことあるごとに普通のおじさんたちが弓道場に集まり、弓を引くシーンを見た。お向かいにいた重鎮に誘われ、少しだけ弓道に触れたこともあった。村の弓道場も、桜の季節はそれはもう優雅で、満開の桜を見やりながら、村内の男たちが弓を引くのである。なんという雅な情景。
弓道場は朝が早い。朝の5時頃になれば、まだ暗い中、誰かが開場し、電気を灯す。季節によっては、氷点下の朝でさえ、弓道場は淡々と始動する。出勤前とおぼしき人たちが、この時間に静かに弓を引きに現れる。美しい習慣。たおやかな文化。まだまだ暗い朝、弓が的に当たる音だけがこだまする。ここに住んで良かったと思わせる一瞬。そろそろ夜が明ける。

空が蒼く染まる更に前、弓道場に灯りがともる。屋根には霜が降りている。

by 江副 直樹 2017-2-23 22:10